太田師範の教え

「合気道は王の道」。わが師である、故・太田師範の言葉です。これには主に二つの意味が込められています。

 一つには、王様は頭を下げたり腰を曲げたりしないことにたとえて、合気道の技においては頭を下げたり腰を曲げて前かがみになるような悪い姿勢をしてはいけないと教えられました。武道は腰で動きます。上半身は常に腰の上に載っている状態を保たなければなりません。腰を曲げて体が前のめりになると、体の重心が前方に大きくずれます。武道の理合いにおいては、重心が崩れた姿勢は「死に体」です。このような悪姿勢を戒めるため、わかりやすく比喩的に表現されたものです。

 姿勢の悪い合気道は、実戦ではとても使えないような甘い想定での稽古をしている証拠です。相手の反撃、蹴りやパンチが想定されていないから、悪い姿勢でも平気なのです。それは、もはや武術ではなく、踊りと揶揄されても仕方ないでしょう。開祖・翁先生の御写真や映像を拝見しても、いずれも凛としたまっすぐな正しい姿勢で技をかけておられます。開祖の銅像の姿も、頭が下がったり腰が曲がったりしていないということを、再確認するべきでしょう。

 

「王の道」のもう一つの意味は、合気道家として、清廉潔白、行動は常に正しくあるべしとの意味を込めて、王のごとく正しく振舞えと表現したものです。心が正しくないと合気道の技は良くならないというのが太田師範の信念でした。

残念なことに、ごく一部の合気道関係者による弟子・会員への威圧的態度や暴力、人格を無視した暴言、セクハラ、法外な集金、えこひいき、差別、陰口など、悪い噂が絶えません。暴君であったり、裸の王様であってはいけません。誰にも恥じることのない合気道家として、立派な王様のごとく、常に堂々と道をまっすぐに歩みなさいとの意味で、「王の道」と言われたのでした。

 

「王の道」の話を教わった当時の師の年齢に、私もそろそろ近づきました。今、私が王の道を歩めているかは自問自答を続けるとして、私も会員の皆さんに師の言葉を伝えていきたいと思います。