私が21歳の時に、第24代の式守伊之助(相撲の立行司)の話を聞く機会があったのですが、非常に面白い話であったので、今でも内容を鮮明に覚えています。「式守家と木村家は、昔は軍配の持ち方が違った。手の甲が上になる持ち方と、下になる持ち方。両家で『陽の持ち方』『陰の持ち方』が決まっていた」。今、インターネットで検索すると諸説が乱立しており、木村、式守のどちらがどの持ち方か、どちらを陰の持ち方と言うか、が混乱してしまっています。私は24代伊之助の説明をはっきり覚えていますが、本稿ではそれを論じるつもりはありません。
太田師範は、技の説明のときに、「陰と陽。プラスとマイナス。」とよく言っておられました。私は師範の「陰と陽」の説明を聞くときには、式守伊之助の話と重ねながら、「陰と陽」での技の解釈を自分なりに咀嚼してきました。 合気道を指導する立場に立ったとき、技の説明は体系的でなければと思うのですが、今まで習ったことについて考えたり悩んだりして自分なりに考えをまとめてきた「咀嚼」が、今になって生きてきたように思います。私は、たとえば座技・正面打ち・1教をするとき、陰と陽を常に意識してやっています。他にも、小林師範がやっておられたことや、他の多くの注意事項も気にしますが、「陰と陽」は常に基本に考えています。
「1教とはどうあるべきか」「2教の目的は」「入り身とはどういうことか」「三面体を開くのはなぜか」「真中をはずす(剣線をはずす)」等々の自分で設定した課題について、まだ満足できる答えにはいたっていませんが、ひとつひとつを丁寧に考察していこうと努力しています。その考えの助けになる思想のうちの一つが、「陰と陽」です。